前森の記憶 -地獄の夜- (2021.7)

 

 

 

ちっくしょ💢 ペチン!

このやろ💢 ペシッ!

くっそ💢  パーン!

 

 

 

 

日も回った未明。隣で横たわる相棒の悪態で何度も目を覚ます。お察しの通り、蚊の侵入を防ぎ 安眠を約束するはずの蚊帳は機能しなかった。昨晩 寝付く前に、蚊帳のつなぎ部分がしっかり閉じられていないことに気づく。これ 下からどころから ここからたくさん蚊が入ってるわ。急いで塞がっていない箇所を閉じるも なんだか よれていて完全には塞げない。ぷーん、ぷわーん。歓喜しているかのように蚊達が蚊帳の中を飛び交う。

 

 

 

 

1年か2年前、夏の升沢の森の中で一夜を明かし、ひどい経験をしたことがある。今宵はその比ではない夜になる予感がした。線香嫌い、虫よけスプレー嫌いの相棒のことを気にしている余裕は無い。体中にシュッシュしてから、線香に火を付けて傍に置く。さらに 暑いのは覚悟をして、布のインナーシュラフとシュラフカバーのジッパーを全閉。頭からすっぽり潜り込むと目を閉じた。

 

 

 

ちっくしょ💢 ペチン!

このやろ💢 ペシッ!

くっそ💢  パーン!

 

 

 

 

隣で横たわる相棒の悪態で何度も目を覚ます。いつも 虫などなんてことはないという相棒。山で小休止を取ると、マンゴーやら、オレンジを齧ったあと、スキンなヘッドにその皮を塗りたくる。虫除けなのだそうだ。これで虫は来ない。マリオのような顔で、どうだとばかりに笑顔で宣う。山の蚊を舐めすぎだ。冷ややかな目でその様をみながら、わたしはシュッシュと虫よけスプレーを使う。いつもの光景だ。

 

 

蚊に悩まされて眠りも浅く、気怠い朝を迎える羽目になった。

 

 

 

沢の傍とはいえ、真夏の低山だ。シュラフカバーを被ると暑くて寝苦しい。時折、暑さに負けてシュラフカバーから顔をだす。ぷーん、ぷわーん。そしてまたシュラフカバーに潜り込む。蚊帳のどこかに隙間が残っているのだろう。一向に減った気配は無かった。

 

 

 

 

うっすらと辺りが明るくなりだした頃、最後には暑さに負けた私。顔を出したまま眠っていたようだ。目を覚ますと顔に何箇所も刺されていた。右目の瞼も刺されて少し視界が狭くなっていた。相棒はほとんど眠れず、蚊たちと愉快な一夜を過ごしたようだった。

 

 

 

 

潜って寝ていたはずなのに、腕や体もところどころ刺されていた。痒すぎる。昨日の焼肉の残りを使って朝食に焼そばを作るが、われわれの食は進まなかった。しっかりと食べないまま朝食を終える。酷暑の低山藪漕ぎとなる二日目。これによりシャリバテを引き起こすことになるのだがこの時は知る由もない。いつも元気な相棒も昨夜はろくに眠れなかったのか見るからに気だるそうだ。さっさと沢に入ったほうがさっぱりできそうだ。出発の準備を済ます。気怠く重たい体を引きずるようにして、前森南鞍部を目指し、左俣の遡上を開始した[地理院地図]。かゆっ。

 

 

痒い思いをしながら、内唐府沢左俣支流の遡上を開始した。

 

 

 

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