分水嶺踏破の記憶。(2019.11)

 

宮城で山を楽しむ人なら、気になっている人も少なからずいるだろう。面白山から、宮城山形の街道の中間地点となる関山までの尾根だ。船形山から不忘までの県境の脊梁主脈のうち、この区間だけ 登山道が大きく途切れている。残雪期なら日帰りでも可能だろう。一泊すればさらに楽しかろう。けれど、無雪期に藪こいで辿るのもいいのではなかろうか。なにしろ大分水嶺を辿れるのだ。浪漫行ではないか。ほどなく決行が決まった。時間計算をし、幕営の場所が無いことも想定してツェルトと決まった。下草がなくなり、雪が降る直前でなければ、時間的に厳しくなるので、山行日のタイミングを図ることが何より重要だった。

前夜に雪がぱらついたその日、われら二人は面白山高原駅に降り立った。少し白くなった登山道を登り、面白山山頂から少し歩く。登山道の向こうに、これから分け入る海原が、沸き立つような雲の切れ間に現れた。素晴らしい。見事な海だ。天気はいまいちで関山までの尾根を肉眼で辿ることはできないが途中までは見える。素晴らしい。尾根が押し寄せる波のようではないか。この中の一本をこれから繋ぐのだ。ほどなくして、われらは意を決して海原に飛び込んだ。

 

これから飛び込む藪の海原を眺める

 

山頂直下が特に素晴らしかった。こんな素晴らしい海は経験がなかった。滝はトップしたくない私だが、藪はトップが多い。軽快にどんどん進む。時速50mぐらいで猛烈に海底を這う。何がすごいって蔓と枝がいと素晴らしくて全然泳げない。尾根筋を境に植生が若干変わることに気づく。蔓という荒波をかき分ける効率がちょっとだけ上がり、少しペースがあがる。時速100mぐらい出るようになった。当社比2倍のスピードアップ。惚れるほど遅え。

日暮れまでにどこまでいけるだろう。ツェルトを張れるところはあるのだろうか。不安との戦い。いや、そんなものは実はない。海をかき分けるのに必死で不安になよなよしている余裕はない。よじのぼるのが大好きな相棒は、藪となるとなぜか涼しい顔で付いてくるのみ。この蔓のKUSOGAAAAA!この笹薮ケインコスギ!!!と悪態を付くわたし。後ろでニコニコしている相棒。ラッセルと同じで藪こぎのトップは体力使うからもっと交代して欲しいんじゃが・・・。

何本かの尾根を下り、夕闇迫る頃、とある場所で久々に海の中から身を乗り出せた。展望が開けたんである。後方には、まさに降りてきた麗しき面白山連山がそびえ立ち、ちっぽけなわれらを神々しく見下ろしているではないか。圧倒的な美しさ。映画のマトリックスの最後、ネオとトリニティがマシーンシティから大気圏へ飛び出す。トリニティにとって初めて見る美しき地球。そして言う。Beautiful… あのシーン。まさにあれ。圧倒的な美。説明なんていらない。海から浮上したのも束の間、われらも再び海に没した。藪と云う名の海原へ。

 

聳え立ち、われらを見下ろしてくるかのような面白山連山