くまのきもち、ぼくわかる

 

山を通して知り合い、やがて仲良くなった友がいる。齢も四十を超えれば、気心許せる新たな友人なんて なかなか出来ないものだ。山が引き合わせてくれたと感謝している。彼は、いや彼らは、春が息吹くと、船形山の山麓にあしげく通っている。熊を見に行っているのである。”彼ら”とは、彼と彼の母ちゃんのことだ。”大”が5回は付くほどの熊好き。小柄で柔和なお母さん。 いつもニコニコしている。熊の格好をして訪ねていけば、きっとハチミツを分けてくれるだろう。そのぐらい熊好きだ。

 

彼らの熊観察は 春に始まり 秋まで続く。毎週 何回か行っていると聞いている。日が落ちた頃、LINEに熊観察の報告が届く。「今日はくまちゃんの日でした。3頭 会えました 😃 」なんてメッセージがしょっちゅう届く。まじでしょっちゅうだ。遭遇率高すぎじゃね? なんでそんなに会えんの? 実は毎日行ってんじゃね? この熊キチ親子が! という疑いの目で見ている。とはいえ、野生動物の観察というのは技術と経験も必要だろう。どこで会えるか、何をしている時期か、木々の中で熊を探せる観察眼。こういったものが養われれば、遭遇率は格段に上がると思われる。わたしが行ったところで頻繁に会うことは叶わないだろう。今度連れていってもらおう。そうだ、そうしよう。

 

報告はしょっちゅう届く。

 

先日は お腹の大きすぎる熊さんがいたそうだ。熊の生態から言えばありえないが、ご懐妊しているのではないか? と思えるほどだったそうだ。気になった母ちゃんは、上野動物園に問い合わせまでしたそうだ。回答は当然ながら 「違う」といったものだったそうだ。その回答を聞いて 母ちゃんはしょげていたらしい。でもわたしは思うんだよね。そういう回答って、現場を見たわけでもないし、その熊を見たわけでもない。当たり前の知識から当たり前の回答をしただけ。でも、熊だけではなく、自然というものは、こうだといい切るのはなかなか難しい。ありえないこと、突発的なこと、イレギュラーなことは必ず起こる。むしろそれが、動物や植物や自然界の強さであり、進化の根源となってきたものだ。初夏に交尾し、母熊は秋に蓄えた栄養具合によって冬に着床、冬眠期間に身籠り出産、0才の子熊とともに春の息吹を待つ。こんなのも最初からそうだったはずはない。何かのひょうしでそうなったはずだ。それが生物を進化に導く。他の人の意見には耳を傾けつつも、その時の自分の直感や考えというのは大事にしたい。この素朴な直感こそが発見や発明を生んできたのだから。

 

報告はしょっちゅう届く。

 

先日は 現地でとある方に会ったそうだ。わたしの森と写真の先生だ。この人も年がら年中 船形山麓に通っている。他の山域には興味はなく、純粋に ただただ 森と自然に戯れることを好み、生業にもしている。わたしの尊敬する人だ。当然ながら熊ともしょっちゅう会っている。ときには熊と対峙したり、じゃれ合ったり(引っかかれたり)している。船形の熊事情に詳しい。先日、彼を先生に紹介しておいたこともあり、最近は、現地で会うと少しばかり話しをしているらしい。当然、話題は熊だ。とある日、先生はこんなことを言っていたそうだ。「ここ(船形)の熊は大丈夫だよ、襲ってきたりしないからな。」 じゃれ合った(襲われた)事件を知っていた母ちゃんは。そうのたまう先生を ジト目で訝(いぶか)しげに眺めながら相槌を打っていたらしい。(いやいやいや、あんた しょっちゅう 襲われて じゃれてるそうじゃない)

 

報告はしょっちゅう届く。

 

先日は 写真が送られてきた。絵になるたいそうかわいい熊の写真だ。木によじ登り、まさにこっちを見ているではないか。いい、とてもいい! 面白そうなので、状況をいろいろと聞いた。かなりそばだったらしい。熊もこちらを意識せずにはいられないほどの距離だったそうだ。「直ぐ近くで見れた。熊も逃げ場がないから二回熊ちゃんに威嚇された。けど可愛かった😃」 なんと……。威嚇ってすごいな。

 

どんな風に唸られたのか興味津津だ。どんな威嚇だったのか聞いてみた。「降りて来るとき、ウッ、ウッ!て言われた。けど気持ちわかる。木の上だから逃げ場ないもん、熊も緊張したんだと思う。木の直ぐ下で俺がいたんだから。俺も緊張した。」なぜだか分からないけれど、これを聞いた時 とっても幸せな笑いが込み上げてきた。いつも 思ったとおり、感じたとおり、それを素直に言葉や感情や行動に移せる彼らしい言葉。わたしにはなかなかそれが出来ないが故に、いいなあといつも思う好きな部分である。なんてことのない返事だったのだけど、わたしの中には なんとも言えない幸せな気持ちが広がった。

 

くまのきもち ぼくわかる。

 

これからも母ちゃんと 元気に楽しく熊観察を続けていって下さい。

 

 

木によじ登ってこちらを見る熊。(升沢, 船形山)