壁、哀愁。

 

 

ここしばらくロープワークの基礎を学んでいる。同僚のTさんにも度々話している。「ビレイは大事なんだよ、ビレイがしっかりしてなきゃ安全に登れないんだよ!」と。

 

同僚のTさんは言っていた。「でも、登る練習もしないとダメだよ。この前だってこんなちっちゃな木にも登れなかったじゃん。沢やる前に、クライミングジムでロープや懸垂の練習もいいけど、人工壁で少し登る練習しないとだめだよ!降りる練習したって、登れなきゃ降りることもないんだよ!」と。

 

私は頑なに拒否していた。だって登れなかったら恥ずかしいじゃない。そんなことは隠しつつ、今日、ひさしぶりにB’nutsに向かった。懸垂下降の復習と、懸垂の空中状態からの登り返しと、ビレイ体験だ。人工壁なんてお遊びさっ、へーんだ。

 

 

 

 

懸垂下降の復習は順調に終わった。フィールドでも実地訓練もやってきたところだったし、抵抗感はもう無かった。次に、懸垂の登り返しの練習だ。「どういう状況を想定していますか?」とインストラクターの方に聞かれる。「えっと、懸垂で降りていて、ロープが足りないとかで降りれないと判明した状況です。」と答えた。「結構、厳しい設定っすね。まぁやってみましょうか。」

 

(あれ、ほかにあるの?)

 

まぁいい。不安を感じつつ登り返しのレッスンが始まった。「足をかけるあぶみをスリングとフリクションノットで作って、それに足を掛けて、片足でぐいっと上がるんです。腕で上がってはだめ、足でしっかりあがる。上がったら、下降器の下のメインロープをぐいっと引き上げる、こんな風に。」さらっとやって見せてくれる。

 

「でも、これ案外難しいですよ、うちでもこれ教えてパッと出来る人ってそんなにいませんから。足をとにかく重力方向にしっかり置くことです。そのへんのバランスを取るのはそれなりに練習が必要です。まぁやっみてください。」

 

バ、バランス・・・恐怖に顔が引きつった。

 

その後、しばらくがんばったものの、私はロープにぶら下がったまま、ゆさゆさとのたうつ、みの虫になっていた。横ではTさんが、顔を真っ赤にして笑いを堪えている。

 

 

 

 

交代でTさんもやってみた。しかしできなかった。わたしはちょっと安心した。その後もう一度チャレンジしてみたがやはりできない・・・。「まぁこれそんな簡単じゃありませんし、きついから僕だってやりたくありません。やらなきゃいけない時はもちろんありますけど、これをやらなくて済むように一生懸命考えることがもっと大事です。けど、トップを行く人ならできないとダメですね。」

 

 

 

 

通って自主練することにしよう。「さ、次はビレイ体験お願いします。」 「では、Tさんにビレイしてもらいましょう、そこの壁ちょっと登ってみて下さい。」「え、登るんですか。」「そりゃ、登らないと相方さんがビレイ練習できませんしね。」「わ、わかりました・・・」「そのオレンジのマークのやつで登って下さい、簡単ですから。」

 

私は、キッと眼光鋭くオレンジマークを見た。”5.7”と書いてある。これは所謂、人工壁や岩登りのグレードというやつで、5.7といえばあれだ。練習の必要も無い、誰でも登れる、数字をつける必要もないようなやつだ。こういうことだけは登ったこともないのに知っている(笑)

 

私は緊張しながら登りだした。そして、50cmも登るまもなく、ストンと落ちた。Tさんが目を丸くしている。やがて、また顔を真っ赤にして笑いを堪えている。

 

「ビレイの練習にならないから、頑張って登って下さい・・・」

 

「はい・・・」

 

またストンと落ちた。大地に立つってなんと安心感のあることか。Tさんは顔を真っ赤にして笑いを堪えている。いや既に吹き出している。

 

「前途多難だな・・・」

 

ぼそっとインストラクターの先生が言ったのを私は聞き逃さなかった。

 

 

 

 

我々は練習を終え、B’nutsを出た。私の後ろを歩くTさんが言う。「なんか、肩、、、哀愁漂ってるね。」顔は真っ赤だ。笑いを堪えて・・・いない。既に笑っている。顔からニヤケが絶えないTさんと別れた私は、来月大東岳で、旗竿に使う篠竹を届けに雪訓サブリーダーとの待ち合わせ場所に向かった。そして、私は告白した。

 

 

「わたし、登れませんでした・・・。沢トレ始まったら、チームを追放されるかもしれません。登れないから。」

 

 

―――――――

 

 

サブリーダーは私を慰めるべく、飯に誘ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 


モツ鍋うまかったなあああああああ!

 

 

 

 

明日はいじけながら、部屋で篠竹の皮むきをするんだ。