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山より丼

11月も上旬から中旬になると、1000mを優に越す山々は冠雪と雪解けを日々繰り返す。この時期は日を選べば冬装備はなくとも山頂に上がれる。うまくすればハイマツなどの木々に雪と氷が張り付いた霧氷の絶景を見ることができる。東北の冬は長い。日本海側や東北北部の豪雪地帯ほどではないけれど、仙台でも11月末~3月末までの間は樹々や草木の緑とはお別れだ。こんな時期は、里の山で樹々が落葉前に見せてくれる最後の紅葉の輝きを愛でるのが一興だ。里でもようやく冬の気配が忍び寄るとともに、黄、橙、赤に色づいた落葉前の葉が艶やかに里を染めている。

今日はそんな里山に行くには絶好の日和だ。冬型の気圧配置。日本海や県境の山々には厳しい風雪が吹き荒ぶが、太平洋側の海岸は寒いながらも好天が望める。本日は9人のパーティで女川にある石投山(いしなげざん)を歩く。朝から雪やあられが時折ぱらつく。まだ冬支度のできていない体に冷気が当たると身震いするぐらい寒さが堪える。頭上を見上げると雲の流れは早い。隙間から日差しが溢れれば心も体も暖まるが、足を止めていると体が冷える。皆、休憩よりも歩行を求めているかのようにペースは早い。お昼の時間が近づいた頃、行程の6割以上を過ぎていた。このままだと二時ぐらいにはついちゃうな。そんなことを思いながら歩く。そんな折、ちらほらと噂のようなものがメンバー内で飛び交っている。なんだか降りてから海鮮丼食べるらしいよ、と。当日の細かい計画は仔細には知らされてはいないのだ。山歩きである以上、下山後の予定を立てたところでどうなるかは分からないものだ。そのあたりはお山の達人、リーダーS氏の匙加減次第だ。あまりあれこれ聞き出すのも興が無い。

山中でお昼になると、皆、お互いの心中を推し量るかのように食べる量を考えて食す。私は、おいなり2個、カップスープ、サラダ。加えて、頂き物の、アップルケーキ、特大苺、さらに、大福を2個もらって頬張る。食べすぎたかもしれない。私は胆石症というプチ爆弾を体内に抱えているのだ。あまり食べてしまうと、下山後に海鮮丼となったら食べ過ぎになってしまう。とっとと手術して取ってしまえばいいのだが、これはこれで、暴飲暴食の抑制、体調の管理と、自分を戒める上で良い枷(かせ)になってくれるのだ。などと言い訳をしつつ様子を見ているが、実は手術をするのが怖いだけだ。何を隠そう私はこれまで一度たりとも入院をした事はないのだ。自分で志願して手術なぞびびりな私には無理である。しかし、この胆石くんとの付き合いも長くなってくると、それはそれで親しみも湧いてくる。そんな訳あるか。話がそれた。

かくして下山すると、デポした車を回収。女川駅ハマテラス内にある”おかせい女川本店”へと皆でいそいそと向かう。そこでメニューの写真をみて仰天。女川丼。なんだこのてんこ盛りの海鮮丼は。1300円でこれならば特選女川丼(2600円)はいったいどうなってしまうのだ。お昼はやはり多すぎたかもしれない。「何となく察してお昼のカップ麺は我慢しました!」というTさんの勝ち誇る顔。ちくしょう、してやられたぜ・・・。さすがは、S氏のグループとの付き合いが長い。よくわかっていらっしゃる。ふと食券機のメニューを見ていると、お、小盛りがあるではないか。これならいける!小盛り女川丼のボタンをポチっとな。無反応。変なランプがボタンについている。上の方を見ると注意書きが。”本日多忙につき、小盛り、特選は提供しておりません” な、なんだと・・・。そう来たか。よかろう。では仕方無し。ならば戦争だ!私の胆石と女川丼の戦いが始まる。いってしまえ。女川丼ポチっとな。すると、ちょうど我々で、午後の部、終了の模様。なんというベストタイミング。海鮮だけに、開戦の狼煙(のろし)があがったのであった。な訳あるか。

女川丼がくるのを待ちながら店内を見渡す。有名人の色紙に並んで妙なポスターが目に飛び込んでくる。

”ロンドンより女川丼!”
”ピンドン(ピンクドンペリ)より女川丼!”
”よーいドンより女川丼!”
”壁ドンより女川丼!”

こ、濃い・・・濃ゆいコピーだ。コテコテじゃないか。そしてイミガワカラナイヨ。壁ドンより? よりってどういうことだよ。壁ドンと女川丼じゃ全然比較になって無いじゃないか。まあでも、キャッチはやはりダジャレだな。意味なんかどうでもいいのさ。それよりドンか。自分でも考えてみよう。”ドンキーコングより女川丼!” はどうだろう。いや、”ドン” が後ろじゃないとだめか。”~どん”、”~どん”。案外思いつかないものだ。もはや頭はドンでいっぱいだ。女川丼待ちながら頭はドン。どんどん出てくると思いきや、”~どん”はなかなか出てこない。私の女川丼もまだ来ない。周囲の人たちは美味しそうに女川丼を食べている。私のはまだか。早くこい女川丼。どんどん腹が減ってきたぞ。~どんといえば、うどんは、なぜうどんなのだ? うの丼なのだろうか。うってなんだ? 女川丼はまだ来ない。アインドントマインド。~どんを考えていれば、いくらでも時間は過ごせるのさ。そこへ閃きがどんとやってきた。”おいどんより女川丼!” どうだ。背景写真は西郷隆盛。西郷どん。彼しかあるまい。どんなもんだい。これならいいだろう。どんしようもないことを考えつつ、女川丼を待っていると、ほどなくやってきた女川丼。どんとテーブルに置かれる。さあピンクドンペリを超える実力をどんと見せてくれたまえ。箸でトロを取り一口。うまい。口の中でトロけるようだ。絶品だ。そして、超ボリューム。マグロ、エビ、いくら、どんどん口へ運ばれる。どんだけ大盛りなんだ。これで並なのか。特選女川丼はいったいどうなっちゃうんだ。いや旨いな。鮮度よし、味よし、ポスターよし。西郷隆盛よし。よしが4つでよんよし達成だ。そういえば西郷どんのポスターの背景はどうするか。鹿児島といえば桜島か。海鮮丼だし海も入ってちょうどよし。これで、ごよし達成だ。うん、バッチリだろう。くだらないことを考えながらぺろりと完食。満腹、ご満悦、大満足である。胆石くん、おとなしくしていてくれたまえよ。あれ? そういえば今日、何しに女川に来たんだっけ?

なんだか一日の山歩きの思い出が全て女川丼に塗りつぶされてしまった。山行の記憶をふっ飛ばしてくれた女川丼のパワー。いと凄まじきかな。

 

 

#後半に進めば進むほど崩壊する文体(笑)

 

 


 

3 件のコメントがあります。

  1. 先日はお世話になりました
    女川丼、美味しかったですね〜!
    女川丼への思いが詰まったエッセイ、爆笑しながら読みました。ポスターも素晴らしいです!
    お店でクマプーさんの丼がくるまで、何か考え込んでるのか、お疲れなのか…と思ってましたが、まさかオリジナルポスターを考えていたとは思いませんでした笑
    Kumapuuロゴのクマさんもオリジナルですか?可愛いですね〜(^O^)

  2. お疲れ様でした。
    こんなに気に入って頂けるとは・・・
    女川丼をご案内して良かったです。
    はじめに言っておけば良かったのですが、時間がどうなるかわからなかったので(^^;)
    おいどんも傑作!

  3. うめさん

    女川丼を待ちながら、頭の中は、どんどんどんどん、で高速回転していたのですよ(笑) 女川って良いライターがいるのか他にオモシロポスターたくさんあるそうです。今度探索に行きたいぐらいだ!

    >もりのさん

    女川丼もですがポスターもすごく気に入りました!友人の話によるともう一軒いいとこあるそうですよ。今度機会があったら行きましょう!

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